「コアファンをさらに熱狂させる」重要性と、ソーシャルメディアの限界・打開策

次世代共創マーケティング」を読みました。

著者は、ソーシャルメディアや、本書で中心として語られる「共創コミュニティ」などを活用した企業のマーケティング―一言でまとめるならばデジタルマーケティング―の支援を行う『株式会社トライバルメディアハウス』代表取締役社長・池田紀行氏と、マーケティングリサーチを取り扱う『株式会社 index-i(インデックスアイ)』取締役副社長・山崎晴生氏。

消費者は学習した。使わない機能ばかりの多機能家電や、数年ごとにマイナーチェンジとフルモデルチェンジを繰り返す車の買い替えをしなくても、なんら生活に支障がないことに気づいてしまった。にもかかわらず、広告は相も変わらず不要なものを売りつけようとしている。そんな中で消費者は「広告に騙されないよう、購入前はしっかりと(自分と同じ立場の)消費者のクチコミを吟味してから決めよう」と考えるようになった。

最近は、ただ漠然と広告を打っても、かつて期待できたほどの効果は期待できなくなったとよく言われます。そんな現代社会の価値観の中で、商品・ブランドを愛し、購入してもらうために必要な、顧客との関係性とはどのようなものなのか

本書はその答えの1つに、「共創コミュニティ」を中心とした「共創マーケティング」を提示します。”共創”によるコアファンの”参加”、それによる”熱狂”が、商品やブランドをさらに愛してもらい、購入してもらう方法なのだということ、そしてそれはソーシャルメディアだけでは達成が難しいことだと語ります。

消費者の商品選択・購入の道筋を知る

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何かを売る、愛してもらうことを考えるならば、まずは消費者が一体どのようにして商品を選び、購入し、気に入るのかを明確に認識しておく必要があります。

千歳モデルでは、消費者の購買行動は、Awareness(認知)→Evoked Set(想起)→Emotional Engagement(感情的な関わり合い)の3つからなり、それぞれが影響し合いトライアングルの関係ができている。

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※引用注:千歳モデル…デル株式会社 マーケティング統括本部・千歳敬雄氏による上図トライアングル型のモデル。

ざっくり崩して書くと、「こんな商品があるらしい」(Awareness / 認知)→購入する際の「そういえばあんな商品あったっけ」(Evoked Set / 想起)→「気になるし買ってみよう」(Emotional Engagement / 感情的な関わり合い)といった具合でしょうか。

そんなわけで、まずは当然「認知」してもらうところから始まるのですが、そこからすぐに購入に至るわけではありません。実際、自分の体験を思い出してみてもそうですよね。

消費者に商品を買ってもらうためには、まずその商品を知ってもらわなければならない。だからAwarenessから始まる。

しかし、ただ単に「知っているだけ」では、世の中に数多ある商品の中から自社商品を選んでもらうことはできない。購入を検討してもらうためには、同一カテゴリー内の数あるブランドの中から自社製品を想起してもらう必要がある。このときの選択肢群がEvoked Setだ。これは「想起集合」などと訳される。実際に購買対象として選択されるためには、想起率が最低でも3位までに入っていなければならないという。

例えばスマホ(の回線)を契約しようとなったときに、最近だとau、docomo、SoftBankが”Evoked Set”、つまり購入の検討対象となる「想起集合」になり、MVNO(格安SIM)各社は、”名前は聞いたことがあるけどあんまりよく知らない”、つまり「認知」の状態で終止する、といった形が多いのかもしれません。

では、そこから実際の購入に繋がるのは、一体どういうものなのか。

もちろん、商品の品質や価格、容量などさまざまな要因があるが、マーケティングコミュニケーション上で最も重要なのは、Emotional Engagement すなわち感情的な関わり合いであると千歳氏は言う。

「最近の消費者は、価格が安いだけでは買ってはくれません。いくらEvoked Setに入っていたとしても、Emotional Engagementが低いと選んでもらえないのです。Evoked SetとEmotional Engagementが双方向で結ばれたとき、そのブランドは価格競争に巻き込まれず、強いブランドマーケティングを展開できます。」

つまり、ブランドに対する感情的な関わり合い―ある種の「愛」が、「価格」に勝る価値観として、購入のきっかけとして存在しているというわけ。

安くすれば何でもある程度は売れるものです。しかしあくまである程度ですし、いわゆる価格競争となると消耗戦が強いられます。そういった競争に巻き込まれずにブランドを確立していくために、強い感情的な関わり合いを顧客との間で形成していく必要があるわけですね。

そしてマーケティングの世界には、2:8の法則と呼ばれる、有名な法則があります。

2割の顧客が8割の売り上げをつくるといわれる。いわゆる2:8(ニッパチ)の法則またはパレートの法則と呼ばれるもの

これらを踏まえると、広く浅く認知を拡大させる以上に、既存のコアファンにもっとブランドを愛してもらうことが、ブランドの発展につながるケースが現代では少なくないことが分かります。

「コアファンをさらに熱狂させる」必要性が高まるも、ソーシャルメディアでは難しい。

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「安いから」といった理由ではなく、「そのブランドが好きだから」という理由で購入してくれるファンを増やすことがこれからは大事、ということは分かりました。

そんなわけで、コアファンを増やす、既存のコアファンを熱狂させ続ける/もっと熱狂させるための手段を考えたとき、まず最初にソーシャルメディアが思い浮かぶのではないでしょうか。一方向の発信ではなく、顧客と直接対話ができるという意味では、感情的な関わり合い Emotional Engagement の形成には確かに最善のように思えます。 

しかしそれにも限界があるというのが本書の主張。

商品を購入してくれた顧客は、次の図の通り、①トライアル購買をしてくれたが、気に入らず次からは買ってくれないトライアル顧客、②価格やキャンペーンに応じてブランドスイッチを繰り返す日和見顧客、③強いロイヤルティはないが、特段不満足もないので何となく買い続けてくれる継続顧客、④強いロイヤルティを持ち、価格に左右されずブランド指名買いをしてくれるロイヤル顧客、そして、⑤身近な友人や知人にも推奨をしてくれるエバンジェリストの5つに大別できる。

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ソーシャルメディアは、エンゲージメントを高めることで、②日和見顧客を③継続顧客に、③継続顧客を④ロイヤル顧客にすることを実現する。

そう、ソーシャルメディアだけでは「ロイヤル顧客→エバンジェリスト」が難しいということです。

たまに購入している/何となく購入し続けている顧客を、ロイヤル顧客(=そのブランドはかなり好きだけど、わざわざ他人に紹介したりはしない)にまで引き込み増やすことはできても、現代社会では広告より信用できるソースとして認識されている「口コミ」を発生させてくれるエバンジェリスト(伝道者)にまで引きこむのは、ソーシャルメディアだけでは難しいというわけです。

ソーシャルメディアの公式アカウントで接点を持つユーザー層は幅広い。ブランドへの関与の度合いもまちまちであるため、ある程度万人受けするコンテンツが中心にならざるを得ない。だから、ソーシャルメディアマーケティングは、さまざまな消費者とゆるやかにつながることには長けているが、ブランドとのより強い感情的・情緒的関係を構築することは必ずしも得意でないともいえる。

特別お気に入りのブランド等でもないけど、何となくフォローしている企業のアカウント。結構思い当たりがある方は多いのではないでしょうか。

そういった方もいる中で、既にブランドに対する熱量が高い人を伝道者の領域にまで熱狂させるような施策を展開することは、現実的に考えて厳しいということになります。

コアファンが制作・運営側に”参加できる”場が必要

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では、ロイヤルカスタマーをエバンジェリスト(=口コミやソーシャルメディアで他人に紹介してくれる伝道者)にまで熱狂させるには、どうすれば良いのか。

ここで本書が訴えるのは、そういったコアファンだけが集まり、ブランドの成長に参画してもらうクローズドなコミュニティを作ることです。

マス広告にはマス広告の、PRにはPRの、販促には販促の、そしてソーシャルメディアマーケティングにはソーシャルメディアマーケティングの強みと弱みがある。共創マーケティングは、従来のさまざまな手法が得意としてこなかった、ブランドへの支持の醸成や、顧客との相互理解によるイノベーションを促進させるものである。

共創マーケティングは③継続顧客と④ロイヤルカスタマーを⑤エバンジェリストに、そしてエバンジェリストのブランドへの熱心な支持(アドボカシー)をさらに維持・向上させる

コアファンというのは、そのブランドの発展に参加することで、さらにそのブランドに対する愛・熱量が向上する。そしてそれはソーシャルメディアでは展開が難しいので、クローズドなコミュニティを運営することが必要なのだと。

エバンジェリストは、もっとブランドや、ブランドがつくる「場」に参加したがっている。

このブランドを本当に愛している自分のような人間だけが参加できて、そしてブランドの発展に寄与できる。こんな「自分事」のように感じられることは、確かに幸福なことなのだろうということは、想像に難くありません。

おしまい。

ここでは、《ソーシャルメディアだけでは難しい「コアファンのさらなる熱狂」の打開策は、共創コミュニティにある》というところに終止しましたが、本書ではさらに、この共創コミュニティの運営の他の利点や具体的な注意点が、実例を交えながら解説されていきます。

冒頭でも書きましたマーケティングの基本的な部分もある程度記されているので、読みやすかったです。

最近は類似の形で有料のオンラインサロンとかもありますし、そういったものの見方や意味も学べるのではないかなと思います。もしかしてアーティストのファンクラブとかも、最近この形式のものあったりするのかな。あんまり知らないけど、活動の仕方によってはありなのかも。

ちなみに、音楽に特化したものではこちらもオススメです。

エヴァンジェリスト、戦略PRがカギの時代。高野 修平さん著「始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング」を読みました。 | よしオト。

今回ご紹介した「次世代共創マーケティング」著者の1人・池田紀行氏が代表取締役社長を務める『株式会社トライバルメディアハウス』所属の高野さんによるものですので、併せて読むのにぴったりかと思います。